大判例

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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)6209号 判決 1973年3月28日

原告

志目裕之

ほか三名

被告

株式会社港きんぐ

主文

一  被告は原告志目征一郎に対し金四〇九万六八八八円およびうち三五九万六八八八円に対する昭和四七年三月一三日から、原告志目裕之、原告志目健二、原告志目征三郎に対し各一三六万四五九〇円および右各金員に対する昭和四七年三月一三日から、各支払済に至るまで年五分の割合による各金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は各自の負担とする。

四  この判決の主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の主張

(原告ら)

一  被告は

(一) 原告志目征一郎に対し、金一二、〇一六、二六六円及びうち金一一、五一六、二六六円につき、昭和四七年三月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

(二) 原告志目裕之、同志日健二、同志目征三郎に対し、各金六、九七七、五一一円及びこれに対する昭和四七年三月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(原告ら)

一  (事故の発生)

訴外亡志目愛子は次の交通事故により、頭蓋骨折等の傷害をうけ、昭和四七年三月一二日午前一〇時四〇分死亡した。

原告志目征一郎は訴外亡志目愛子の夫、その他の原告は志目愛子の子である。

(一) 日時 昭和四七年三月一二日午前一〇時四〇分頃

(二) 場所 秋田県南秋田郡天王町天王字追分一一七の一五

(三) 加害車 営業用乗用車(登録番号 秋五あ八四〇七号)

(四) 態様 訴外小玉徳則運転の加害車が歩道を歩行中の志目愛子に衝突したもの。

二  (責任関係)

被告は加害車を自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法第三条により損害賠償義務がある。

三  (損害)

(一) 葬儀費用 三〇万円也

これは原告征一郎が支出したものである。

(二) 逸失利益 三三、六四八、八〇〇円也

訴外志目愛子は株式会社志目商店に勤務し、死亡当時の給与が月額一三一、二七九円(所得税等を差引いた金額)を支給されていた。

また、右訴外会社の年間昇給率は平均一万円である。これにもとづき、志目愛子の逸失利益をホフマン式計算法により算出すると、三三、六四八、八〇〇円となる。これを法定相続分によつて分けると、原告征一郎は一一、二一六、二六六円、その他の原告はそれぞれ七、四七七、五一一円を相続したことになる。

(三) 慰謝料 金三五〇万円也

原告征一郎につき金二〇〇万円

その他の原告につき各金五〇万円(合計一五〇万円)

(四) 弁護士費用 金五〇万円也

本件損害賠償につき、原・被告間において話合いをしたが、話し合いが、成立せず、本件代理人に訴訟を委任し、その手数料として原告征一郎は金五〇万円を支払う旨約した。

この債務も本件事故にもとづく損害である。

四  (弁済予定)

原告らは、強制保険の被害者請求をしており、近日中に金五〇〇万円の支払をうけられる予定である。

これを原告征一郎につき二〇〇万円、その他の原告につき各金一〇〇万円宛(合計三〇〇万円)充当する予定である。

五  よつて被告に対し

(一) 原告征一郎は金一四、〇一六、二六六円から、金二〇〇万円を差引いた金一二、〇一六、二六六円及び弁護士費用を除いた金一一、五一六、二六六円につき、昭和四七年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による損害金

(二) 原告裕之、同健二、同征三郎はそれぞれ金七、九七七、五一一円から金一〇〇万円を差引いた金六、九七七、五一一円及びこれに対する昭和四七年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による損害金の支払を求める。

六  被告主張第三項の事実を認める。

(被告)

一  原告主張の第一、第二項の事実を認める。

同第三項の事実は不知。

二  本件の争点は損害の内逸失利益の算定法にあるが、被害者は志目商店に勤務していたと主張するも子供三人の養育の傍ら店の手伝いをしていたと考えられるので専ら主婦的労働の面から収入額を認定すべきものと考える。なお、一〇―九九人の企業規模における二五―二九才の女子の平均賃金は四五、八〇〇円である。

仮に原告主張の給与が支払われていたとしても、被害者は社長である原告征一郎の妻であり、対税上の問題等から、現実の労務価値に対応しない給与の支給も考えられるのでかかる場合は、株式会社志目商店の営業規模、従業員の給与支給実態等を勘案して真に労務価値に対応する金額を算定の基礎とすべきと考える。同商店の利益は人件費等の増大により減少している。

昇給については不法行為時点で一括して受領することになるので考慮の必要性はなく、又いわゆるベースアツプとの区別も明確にされないし、企業規模、永続性、昇給規定の有無などを考えると考慮すべきでない。

生活費は本件被害者は単身者と同視せられるから収入の五割と認めるべきである。

中間利息の控除方法としてはライプニツツ方式によるべきものと考える。

三  弁済

原告らは自賠責保険金五〇〇万円のほか被告から六〇万円、合計五六〇万円を受領している。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告ら主張第一、第二項の事実については、すべて当事者間に争いがない。

二  そこで原告らに生じた損害について判断する。

(一)  葬儀費用 三〇万円

葬儀費用として三〇万円程度の出捐を余儀なくされることは当裁判所に顕著であり、これに当事者間に争いのない原告征一郎が亡愛子の夫であること、同原告本人尋問の結果から、他の原告はいまだ未成年の子であることが認められるので、原告征一郎が右金員を出捐したものと推認される。

(二)  亡愛子の逸失利益現価 九四九万〇六五九円

原本の存在ならびに〔証拠略〕によると、本件事故当時亡愛子は原告征一郎の経営する株式会社志目商店の取締役兼従業員として勤務するとともに原告裕之、原告健二、原告征三郎の母として家事にも従事していたこと、株式会社志目商店は、服地裏地繊維総合販売を業とするいわゆる原告征一郎の個人会社であり、同原告の他に亡愛子を含めて六~七名の従業員がいたこと、亡愛子は昭和四五年八月までは月収五万円であつたが、同年九月からは七万円、昭和四六年四月からは一〇万円、同年九月からは一五万円と株式会社志目商店の賃金台帳上の記載がされていること、亡愛子の昭和四六年度の地方税通知書上の支払給与総額は一三一万円となつていること、昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの一年間における志目商店の売上高は一億六三五五万七〇〇〇円、仕入高は一億五三八三万四〇〇〇円であり、この期間の人件費は五五五万六〇〇〇円、昭和四五年九月一日から昭和四六年八月三一日までの一年間における志目商店の売上高は一億七三四五万三〇〇〇円、仕入高は一億六〇一七万四六五九円、この期間の人件費は八四一万円であり、昭和四六年九月一日から昭和四七年七月三一日までの一一カ月間における売上高は一億六一六三万〇七二二円、仕入高は一億二二二一万二八八四円となつていること、他の従業員の給与は最高でも七万円余であつたが、特別亡愛子の給与を上げたのは、段々と子供が成長し手を離れて来たことや他の従業員の給与とのバランス、昭和四六年末から昭和四七年度七月にかけての仕入に対する売上増などによること、昭和四七年一月の亡愛子の公租公課を除いた純収入は少くとも一三万一二七九円となること、の各事実が認められる。

ところで、逸失利益は原則的に被害者本人の労働能力を金銭的に評価して算出すべきであつて、労働能力と直接に関連ない配当分や従業員等第三者の寄与分についてはこれを除外する必要があるところ、亡愛子の逸失利益を算定するに際し、その基礎とすべき収入については、事故当時の亡愛子の収入をもつて、当時二九才(記録に編綴されている戸籍謄本により明らかである。)の同女の労働能力を正当に評価し、かつ稼働期間として一般的な六三才までの三四年間にわたり確実にこれを受けうるものとして見ることは困難であり、さらに原告ら主張のように毎年一万円昇給し、最終的には月額三八万円の収入を得ることの予測性は一層困難であるから、直ちにこれによることはできないと言わなければならない。けだし、志目商店は小規模ないわゆる個人会社であつて、社会経済状態の変動によつて、その営業実績の変動が著しいことおよび各目上給与とはなつていても、不況下においては、その実質収入を減額されるのみならず、かえつて個人資産を持ち出して営業を継続しなければならないことおよび志目商店の代表者は原告征一郎であつて、同原告は亡愛子の給与を名目上も実質上も自由に変えられる立場にあることならびに亡愛子の死亡により、志目商店にとつてその部分の労働能力の減少は、同原告が一般男子労働者を雇傭することによつて補填される関係にあると言えるからである。又昇給についてはこれを認めるに足りる確証はない。(ベースアツプと解しても、現在一時に将来分も請求している限り、これを認めることはできない。

そうすると一応、亡愛子については事故直前の純収入が一三万円余であつたこととの書証はあるか、同女について特段一般男子就労者よりすぐれて労働能力を有していたとまでは認めるに足りる確証のない本件にあつては、男子労働者の平均賃金を基礎として逸失利益を算出するのが相当であると認められる。なお被告は主婦的労働―換言すれば女子労働者の平均賃金程度を基礎として算出すべき旨主張するが、同女は三人の子供の面倒に加えて、志目商店の業務にも携わつて、原告征一郎の仕事の片腕となつていたこと、子供も段々と手を離れ、祖母などの協力もあつてかなり志目商店の営業に専念しえたことが前掲証拠から認められ、且つ、将来はともかく一時的にせよ男子労働者の平均賃金を上廻る収入を得ていたと認められるのであるから、月三~五万円程度に評価される単なる専業主婦と同視することは相当でない。

そこで男子の平均賃金を基礎として亡愛子の逸失利益の現価を算出すると次のとおり九四九万〇六五九円となる。

(収入) 昭和四七年度賃金センサス男子労働者平均年収

一一七万二二〇〇円

(稼働期間) 三四年間

(生活費) 収入の二分の一(但し公租公課等も含む)

(中間利息の控除) 年五分の割合によるライプニツツ計算法(係数一六・一九二九)

(計算) 一一七二二〇〇円×(一-〇・五)×一六・一九二九=九四九〇六五九円

(相続分) 法定相続分原告征一郎三分の一(三一六万三五五三円)、その余の原告各九分の二(各二一〇万九〇三五円)

(円未満四捨五入)

(三)  慰藉料 総額三五〇万円

本件記録上に現われた諸般の事情を斟酌すると、被告は原告征一郎に対し二〇〇万円、その余の原告らに対し各五〇万円をもつて慰藉するのが相当と認められる。

(四)  損害の填補 五六〇万円

右金額の損害の填補がなされていることは当事者間に争いがない。よつてその充当について特段の合意による指定の認められない本件にあつてはほぼ各相続分に従つて充当されるものと解される。よつて原告征一郎は一八六万六六六五円その余の原告らは各一二四万四四四五円(端数調整)よつて原告征一郎につき、(一)(二)(三)の合計額から右金員を控除すると残額三五九万六八八八円、その余の原告らは各一三六万四五九〇円となる。

(五)  弁護士費用 五〇万円

原告征一郎が原告ら訴訟代理人に他の原告らの分を含めて本訴追行を委任したことは記録上明らかであり、これに右弁護士費用を除く認容総額その他諸般の事情を斟酌すると右金員は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

三  よつて被告に対し原告征一郎が四〇九万六八八八円、その余の原告らが各一三六万四五九〇円および右各金員(但し原告征一郎の弁護士費用分五〇万円を除く。)に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四七年三月一三日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

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